扁桃腺の手術については、小さいお子さんで、よく扁桃腺を腫らしてその度ごとに高熱が出て、幼稚園や学校を休まなくてはいけなくなったり、扁桃腺の炎症によるため、いびきがひどく夜間の睡眠もさまたげられていて、そのため心配になる親御さんからよく聞かれる質問です。
ここでは口蓋扁桃のことを指していますが、咽頭扁桃(アデノイド)も問題になります。両方とも生下時には小さいですが、年齢とともに肥大し、口蓋扁桃は6〜8歳で、アデノイドは5〜7歳で最大となります。小学校入学以降は両方とも見かけ上は小さくなります。
口蓋扁桃摘出術とアデノイド切除術にはそれぞれ独立した適応がありますが、小児においてはこれらの2つの手術が同時に行われることが多いです。ちょうど年齢的に手術適応が併せて存在するからです。
手術の適応に関してはQ.65で述べていますので、ここでは実際の術式について述べます。図に関しては耳鼻科のバイブルからの引用になります。
基本は全身麻酔です。
両方の手術とも懸垂頭位で下の図のように開口器で口を大きく開け、開口器と一体かした舌圧子で舌を押さえ扁桃腺を直視下におきます。この全身麻酔は気管内挿管ですので、口蓋扁桃摘出だけのときは、麻酔科医が気を利かせて、経鼻挿管してくれると、やや術野は見えやすいのですが、これがアデノイドも併せてとるとなると、経口挿管ですから、麻酔のチューブも口の中にあって、なかなかやり辛いものがあります。挿管チューブを左右にうごかして、頭につけたライトで自分の視野に合わせるようにします。ライトは天井からの無影灯ではありません。集光させて口の中という穴倉の中の扁桃腺を適切に剥離、切除していきます。耳鼻科の手術はのどでも、鼻でも、耳でも小さな穴倉を覗き込む手術が多くを占めます。ただ近年の内視鏡の発達により、内視鏡下の手術形式をとるものが多くなっています。でも扁桃腺の摘出術はそれほど変わっていないと思います。
扁桃腺もアデノイドの手術も基本的には切りっぱなしです。こう言うと語弊がありますが、もちろん扁桃腺は被膜におおわれていますので、大きな血管は結索しますが、コロッと塊でとります。本当に桃の種のような感じです。アデノイドの場合は被膜はありませんので、後鼻鏡や触診にて間接的に大きさなどを確認して、いざ切除の時は、いっきに削り取るという感じです。切除直後には止血作用のある薬液でしばらく押さえたり、電気凝固なども駆使して止血しますが、それでもじわじわと出てくる出血に関しては医療用のコットンなどでタンポンをしたりして1晩そのままにして、翌日止血を確認してから除去します。以上のやりかたはわたしが勤務医としてバリバリとオペしていたときの自分なりの手順ですので、今は多少違うかもしれませんが、大筋は同じと考えてよいでしょう。
翌日から、創面はだんだんと白くなっていき、いわゆるかさぶた(痂皮)のようなものが形成されていきます。この時に不自然に痂皮がはがれたりすると出血する場合があります。ですから、しっかりした上皮ができるまでは術後出血の可能性はあります。
食事は流動食から、3分、5分、7分、全粥とあげていき、退院までに普通食が食べれられるようになります。口の中の手術ですから、痛いことも痛いようです。
子供は回復が早いですが、大人の方はなかなか痛みが続くようです。
図(1)は実際の手術です。扁桃腺やアデノイドの手術は、耳鼻科医が比較的最初に覚える手術です。剥離時に思わぬ出血があったりすると、横で指導している先輩先生に交替してもらって止血処置をしてもらったりしますが、一人で手術が完結できると、外科医としての喜びと満足感が少し味わえます。あとは患者さんが術後出血もなく、全身麻酔から、順調に回復してくれれば病室に戻ります。患者さんがお部屋に戻って、呼びかけにも十分に反応し、術野の出血がなければ一応安心です。2時間ぐらいしてから病室に回診にいきます。
図(2)は扁桃腺の手術手順です。剥離をいかにうまくおこなうかがポイントです。
図(3)はアデノイドの手術器械とその使い方です。
質問の一覧へ
|