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2023年1月
〜やっぱり教科書のようなことはありますね〜
以前から時々お見えになり滲出性中耳炎で治療をされている方のお話です。
滲出性中耳炎は小児と一部高齢者でみられる傾向にある中耳炎です。
滲出性中耳炎の機序としては耳管の狭窄あるいは閉塞が原因で中耳に浸出液が溜まると考えられていますが、急性の中耳炎とは違い耳管の機能不全が原因と考えられています。
アデノイドの炎症や副鼻腔炎などにより後鼻漏を停滞させて耳管の感染を起こし、耳管機能の障害をもたらすことが発症の役割として考えられています。中耳の換気障害は炎症により生じた浸出液の排泄を阻害し中耳炎が遷延します。これが滲出性中耳炎の成り立ちと考えられます。
高齢者では耳管の閉鎖が弱く機能低下が滲出性中耳炎発症の一因となっています。
また上咽頭腫瘍が耳管周辺に浸潤すると中耳に貯留液を生じることがあるので上咽頭の観察をしなくてはいけません。
今回はいわゆる副鼻腔炎に伴った片側の滲出性中耳炎から、その後に発生した上咽頭のリンパ腫によって両側の滲出性中耳炎を生じるようになった方の例です。
この方Kさんとのかかわりを年表で示します。

2012年   右急性中耳炎、副鼻腔炎で治療。1か月で治癒
2013年    
2014年   左滲出性中耳炎で半年治療。来院は1か月に2回ぐらい
2015年    
2016年    
2017年    
2018年   左滲出性中耳炎で1か月治療。
2019年   左滲出性中耳炎で1か月治療。
2020年   左滲出性中耳炎で半年ほど治療。来院はときどき。
2021年   左滲出性中耳炎で半年ほど治療。来院はときどき。
2022年   左滲出性中耳炎で2か月ほど治療。
半年ほど経ってから両側の滲出性中耳炎で来院。
この期間が空いてるのは患者さんに癌が発見され治療をされていたようです。
その時、行った全身のPET検査で上咽頭にリンパ腫が発見されました。治療を受けている病院からのご連絡で初めてその事実をしりました。もしかして、数年前からの滲出性中耳炎は上咽頭に浸潤したリンパ腫の影響もあったのかもしれません。もちろんKさんには慢性的な副鼻腔炎もありました。

いつもの滲出性中耳炎の再発と考えて治療しました。同じ症状で来る患者さんに改めて内視鏡を勧めるのはなかなか雰囲気的に難しいものがあります。
下記に患者Kさんのデータを示します。患者さんから了承を得て掲載させていただきます。



Kさんの治療に関してはリンパ腫のこともあるので中耳に浸出液がたまったら侵襲の少ない鼓膜穿刺で浸出液を抜き取ります。本来抜いた後は耳管通気という治療を行うのですが、上咽頭に通気管が当たったり、耳管周辺に損傷を起こしてはリンパ腫の播種にもつながらないとも考えられるので、通気治療はしていません。
Kさんは元来明るい方で、聞こえなくなったらまた来院されるとのことです。 その都度の鼓膜穿刺で経過を見ようと考えています。