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2011
本当はこわい喉頭の炎症〜続編

この3月に経験した症例です。女性の方で、頸部の腫脹と息苦しさを訴えて来院されました。前日に某総合病院の内科を受診され、「喉の奥はわからないから、変わらないようなら耳鼻科に受診するように」と、指示されて、当院を受診されました。以前に他の病気で当院にかかったことがある患者さんでした。

先ず、耳下腺部分から頸部全体が腫脹し、やや息苦しさがあるも、チアノーゼ(呼吸困難による症状)もなく、声もでました。口腔、中咽頭の粘膜は特に腫れていませんでした。お話を伺うと、その前日から両耳下腺部が腫れ始め、前頸部も引き続き腫れ始めたとのことでした。顎下腺も舌下腺も触診すると腫れており、それ以上に前頸部全体が腫れていたため、喉頭蓋炎に伴った、頸部の蜂窩織炎かと考えました。また唾液腺全体も腫れていたため、おたふくかぜの重症化したものかとも考えましたが、はっきりしません。

この時期は、特に今年は花粉症の患者さんも多く、外来も混雑していましたが、喉頭の状態を確認しなければ、この患者さんにどんな治療をすれば良いのかわかりません。間接喉頭鏡では喉頭の状況はわかりませんでした。内視鏡検査をする必要がありました。もし喉頭の狭窄でもおこしていようものなら、内視鏡中に痰が詰まったりすれば、呼吸困難にもなりかねません。反射を軽減させるための表面麻酔の薬液は投与せず、鼻より内視鏡を挿入。幸いにも患者さんは咽頭の反射も少ない方だったので、比較的スムーズに挿入できました。

そして驚いたのは、下咽頭から喉頭粘膜全体がedematous浮腫状に腫れていました。医者の言葉で言えばエデマッテル、簡単に表現すると、ブヨブヨに粘膜全体が腫れていました。細菌感染に伴った喉頭蓋炎とはちょっと違った腫れ方で、初めてでした。声門近くに内視鏡を入れるのは危険ですから、声門下の粘膜の腫れはわかりませんでした。声門下の狭窄もおこしていたかもしれません。こんな状況でも、患者さんには見えないところですから、意外と病識が軽く、わたし一人が、この混雑した外来の中で、内心真っ青になっていました。

御主人とお見えになっていたので、双方に内視鏡所見を見せながら、一刻も早く、気道管理のできる病院に入院しなければならないとお話し、最悪の場合には気管切開も必要であると言い渡し、昨日患者さんがかかった病院に電話して入院をお願いしました。

こういう時に限って外来が忙しく、お待ちになっている患者さんもたくさんいると思うと、ゆっくり思考できません。ただ言えるのはこの浮腫の進行を速やかにおさえなければいけないということでした。

下の写真はその患者さんと特に問題のない正常の患者さんの喉頭の写真です。


少し上のほうから喉頭全体をみた写真

喉頭に近づいた写真
正常の下咽頭と喉頭

正常の喉頭、両側の声帯と気管腔

後日ご自宅にお電話したら、患者さんが在宅されていて、お話を伺ったところ、逆紹介先の病院から、救急車で某大学病院に搬送されたそうです。その時には意識がもうろうとしていたそうです。幸いにも気管切開をせず、気管内挿管で呼吸を確保して1週間ちょっとの入院で帰宅されたそうです。

大学病院でもはっきりした原因はわからず、何かのアレルギー反応かもしれないと言われたそうです。確かにアレルギー反応というのはどういう形で来るかわかりません。

なにはともあれ、花粉症の患者さんでごった返している外来で、内視鏡をやってよかったと思っています。ステロイドや抗生剤の投与で様子を見るようにと言ってたら、どうになっていたことやら・・・。

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